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Veterinary Mycology Reference

小動物の真菌症について

真菌感染症の診断と治療について

2023年7月22日 帝京大学医真菌研究センター 教授 加納 塁

はじめに

小動物の真菌症では、皮膚糸状菌症やマラセチア皮膚炎のように日常診療で遭遇する疾患に加え、深在性真菌症や腫瘍などとの鑑別が必要となる場合があります。近年は伴侶動物の高齢化や獣医療の発展に伴い、難治性疾患への診断・治療機会が増加しています。また、原因菌の多様化や抗真菌剤耐性株の分離により、原因菌の同定と薬剤感受性検査の重要性が高まっています。

病態と診断

真菌症の診断には、臨床症状、血液検査、画像検査など一般的な検査に加え、確定診断を行うための特異的検査として、病変部の直接鏡検、細胞診、分離培養検査、病理組織学的検査、遺伝子検査があります。

画像検査は病巣の検出や浸潤度の判断に有用ですが、化膿性炎、肉芽腫性炎、腫瘍との鑑別が困難な場合があります。そのため、確定診断が難しい場合は複数の検査を組み合わせて評価します。

直接鏡検(皮膚掻把物検査)

皮膚糸状菌症では、直接鏡検は比較的短時間で実施できる検査です。病変の周辺部など新しい病巣から被毛や落屑を採取し、KOH溶液を用いて観察します。リングワーム状の病変では、中心部ではなく健常部との境界から検体を採取すると菌要素を確認しやすいとされています。

細胞診

生検材料、浸出液、リンパ節の針吸引物などから押捺・塗抹標本を作製し、染色後に顕微鏡で観察します。炎症細胞とともに酵母や菌糸が認められることがあります。クリプトコックス症では、必要に応じて墨汁標本で莢膜を確認します。

抗原診断

アスペルギルス症やクリプトコックス症では、真菌抗原を検出する検査が診断に役立つ場合があります。ただし局所感染では陰性になることもあり、検査を依頼する際は実施機関への確認が必要です。

真菌の分離培養・同定法

落屑、痂皮、被毛、滲出物、膿瘍、尿、乳汁、血液、胸水、腹水、脳脊髄液、リンパ節穿刺物、生検材料などから真菌分離を試みます。原因菌を想定し、適切な分離培地と培養条件を選択することが重要です。

形態学的同定では、集落の色、表面性状、辺縁、発育速度、色素産生などを観察します。さらに顕微鏡標本で菌糸、大分生子、小分生子などの形態を確認します。

病理組織学的検査

病変部の生検または切除組織を固定し、病理組織検査を行います。真菌症が疑われることを伝えることで、HE染色に加えてPAS染色やグロコット染色を用いた評価が行われる場合があります。

分子生物学的検査

分離菌から遺伝子を抽出し、ITS領域などの塩基配列を解析して菌種同定を行います。形態のみでは判定困難な菌種の確認に有用です。

臨床・培養・顕微鏡像

図1
図1|猫のアスペルギルス感染による鼻腔・眼窩炎の症例に対する鼻腔内CT画像と再構成立体画像。
図2
図2|真菌性骨髄炎のレントゲン像。画像だけでは骨肉腫との鑑別は難しい。
図3
図3|皮膚糸状菌症による環状紅斑。紅斑辺縁部を採取すると菌体が多い。
図4
図4|被毛周囲に取り巻く Microsporum canis の球形の分節分生子。
図5
図5|軟化した角化細胞の輪郭。菌糸との鑑別に注意する。
図6
図6|猫のクリプトコックス症におけるリンパ節の針吸引塗抹標本。
図7
図7|墨汁に懸濁した Cryptococcus neoformans。莢膜によって菌体周囲が透明に見える。
図8
図8|Candida albicans の集落。クリーム色で表面と辺縁がスムース。
図9
図9|Cryptococcus neoformans の集落。光沢のあるクリーム色集落。
図10
図10|Malassezia pachydermatis の集落。黄褐色で表面・辺縁がラフで乾燥。
図11
図11|サブローブドウ糖寒天培地上の Microsporum canis の集落。
図12
図12|サブローブドウ糖寒天培地上の Aspergillus fumigatus の緑色ビロード状集落。
図13
図13|DTM培地上の Microsporum canis。代謝により集落周辺の培地が赤変。
図14
図14|Microsporum canis の大分生子。紡錘形で細胞壁・隔壁が厚い。
図15
図15|Microsporum gypseum の大分生子。紡錘形で細胞壁・隔壁が薄い。
図16
図16|Trichophyton mentagrophytes の大分生子。細長い形状。
図17
図17|猫の鼻腔内アスペルギルス症の病理組織。菌糸周囲に炎症細胞が認められる。

治療について

真菌症の治療では、原因菌種、感染部位、病態、薬剤感受性、副作用などを総合して抗真菌薬を選択する必要があります。旧サイト原稿では、アゾール系、アリルアミン系、ポリエン系、キャンディン系などの抗真菌薬について特徴と使用上の注意が解説されています。

専門家向け情報

治療内容・薬剤選択・投与量等は症例ごとの判断を必要とする専門情報です。本ページは加納教授による原稿を基にした獣医療従事者向け参考情報であり、一般の飼い主向けの診断・治療指示を目的としていません。

高齢動物への配慮

高齢動物では日和見感染の進行や、抗真菌薬の副作用に注意が必要です。

飼い主に伝えるポイント

皮膚糸状菌症では人への感染が生じる場合があること、マラセチア皮膚炎では基礎疾患により再発する場合があること、深在性真菌症では治療が長期化し重篤化する場合があることなど、疾患ごとの注意点を説明することが重要です。

参考文献

  1. Mawby DI, Whittemore JC, Genger S, et al. Bioequivalence of orally administered generic, compounded, and innovator-formulated itraconazole in healthy dogs. J Vet Intern Med. 28:72-77, 2014.
  2. Moriello KA. Treatment of dermatophytosis in dogs and cats: review of published studies. Vet Dermatol. 15:99-107, 2004.
  3. Greene CE, Calpin J. Antimicrobial drug formulary. In: Greene CE (ed). Infectious Diseases of the Dog and Cat, 4th ed. Saunders Elsevier, St. Louis, 2012.